「1990年の厚生省ダイオキシン排出指針の既設炉など目標値を削る」





〜朝日新聞1998/06/18朝刊〜

 ごみ焼却施設から出るダイオキシン対策として、厚生省が1990年にガイドラインをまとめた際、検討会の作業部会で詳細なダイオキシンの排出濃度の目標値を作っていながら、ガイドラインに生かされていなかったことが分かった。厚生省側が提出してきたガイドライ ンの原案には数値目標が全くなく、検討委員らの抗議で、一部の機種の新設炉だけ目標値を入れた。だが、焼却炉の8割を占める既設炉は目標値がないため、多くの自治体で対策に手 をつけないままになった。
 厚生省は1990年に学者や自治体代表からなるダイオキシン類発生防止等ガイドライン検討会を設置、同年暮れにガイドラインをまとめた。検討会の複数の委員や厚生省の関係者によると、委員長の平岡正勝・京都大学教授(現名誉教授)や作業部会のメンバーで、焼却炉が新設の場合、既設の場合、型式の違いによってどういう対策があるかを検討。排出目標値と対策を掲げ、この結果、今後15年間で既設炉の建て替えや炉の改良が進んで排出量は10分の1に削減できるなどと推定した。
 これらは資料として厚生省側に出されたが、事務局側が作成したガイドラインの原案には、目標値は書かれていなかった。平岡委員長らが「数値目標も書かず、どうして対策を進めるのか」と強く抗議、結局、同省が一部妥協し、全連続炉の新設部分だけ、「 0.5ナノグラム(ナノは10億分の1)程度以下になることが期待されている」と書き込むことで落ち着いた。
 関係者によると、厚生省側の態度の背景には、既設炉についてのデータが不十分だったことのほか、自治体側から「突然、厳しい数値を出されても対応できない。数値を入れるのは控えてほしい」という強い意見があったとされる。
 当時、一般ごみ焼却施設からの排出量は年間8キロで、5年後に4分の1になると推定していたが、実際には半分程度にしか減らなかった。

Back