「データ公表、安全訴え−JA所沢の野菜ダイオキシン調査」



〜朝日新聞1999/02/10朝刊〜

 埼玉県所沢産野菜の販売中止騒ぎで、JA所沢市は9日、ダイオキシン調査の結果を公表した。

ホウレンソウ1グラムあたりの平均濃度は0.27ピコグラム(ピコは1兆分の1)で、 厚生省の全国調査と比べてやや高い程度で、専門家や関係省庁は「ただちに問題はない」と みている。JA所沢市は「この結果を消費者に示して安全だと訴えたい」とした。 しかし、安全を示す国の調査はなく、今後の課題となっている。

●厚生調査比、やや高め

 JA所沢市によると、調査は1997年、露地ものの所沢産ホウレンソウ7点 (畑から5点、出荷場から2点)とサトイモ3点を選んで実施。水洗いしたうえ 民間機関に調査を依頼した。

 ホウレンソウは最大0.43ピコグラム、最小0.087ピコグラム、平均0.27ピコグラムだった。 厚生省が同年に全国7つの小売店で購入したホウレンソウの調査(0.025〜0.37ピコグラム、 平均0.158ピコグラム)と比べ、少し高い程度だった。サトイモからは全く検出されなかった。

 JA所沢市はホウレンソウ1検体について、水洗い前後の濃度についても比較した。 水洗い前は0.71ピコグラムだったのが、水洗い後は0.34ピコグラムに半減していた。

 一方、独自の調査結果を報道したテレビ朝日が調査を依頼した民間研究所もこの日、 昨年11月から12月にかけてのホウレンソウ調査結果を公表。水洗いした後の数値で 最大0.75ピコグラム、最小0.63ピコグラムだった。テレビ朝日では葉もの最大値は 3.8ピコグラムと報道したが、同研究所は「ホウレンソウではない」としている。

 村上起志次組合長は記者会見で「ダイオキシンが社会問題になりつつあるなかで、 農協も対策をとる必要があった。全国に先駆けて、よかれと思ってやったことが、 パニックになり、組合員に迷惑をかけた」と話した。これまで公表を拒んできた 理由については「国の基準がなく、数字が独り歩きし、混乱すると思った。 隠していたわけではない」と語気を強めた。

 暴落を引き起こした一番の原因について、JA所沢市は「国に安全基準がないこと」をあげた。 今後は野菜の調査は実施しないとし、「農協ではなく、行政の役目だ」との認識を示した。

 調査結果について埼玉県は「JAデータをもとに1日のダイオキシン摂取量を試算したところ、 1日耐容摂取量を大きく下回った。事実上の安全宣言といっていい」と話した。

●農家ひと安心、スーパーは様子見

 JA所沢市がこの日発表した調査結果について、所沢市北岩岡でホウレンソウやサトイモを 作る専業農家の粕谷和夫さん(47)は、「数値が思ったより低く、安心した。所沢の農家は、 全国有数の産廃地帯で農業をしている。国や県、農協はみんなが納得する解決策を探すべきだ」 と訴えた。

 市内の別の農家(71)も「農協が数値を公表しないのは、数値が高いからだと思い、 毎日不安だった。国や県は早く安全宣言をしてほしい」と一刻も早い事態の収束を訴えた。

 一方、スーパー側は慎重な受け止め方をしている。

 東京都内と埼玉、千葉県の20店で、所沢産と隣の入間産のホウレンソウ、チンゲンサイの 販売を中止しているジャスコ(千葉市)は「県や国などの調査と安全基準の見解を待ちたい」。

 全国の約160店舗で埼玉産のホウレンソウなどの入荷をやめたイトーヨーカ堂 (東京都港区)も「従来の方針に変わりはない。お客様の意見も聞き、あらゆる角度から 検討していく」との姿勢を崩していない。

 一方、所沢産のホウレンソウの販売を中止している西友(東京都豊島区)は 「1年半前の調査では、時期が古い。対応に変化はない」としながらも、 市内の契約農家が栽培するホウレンソウなどについては、独自に検査していく方針を示した。

◆「問題なし」省庁側見解

 JA所沢市の調査結果の公表を受け、厚生、農水、環境各省庁は9日、 「直ちに健康に影響が生じるとは考えられない」などとする見解を一斉に出した。 公表された資料のダイオキシン類濃度が、厚生省の1997年の調査結果をやや上回る 程度だったことなどから判断した。ただ、安全性を確認するため、 埼玉県や関係省庁による合同調査は予定通り実施するとした。

◆採取場所や方法は──木下冨雄・甲子園大学長(社会心理学)の話

 JAが調査結果を公表したことは評価できる。しかし、サンプルをとった場所や採取の方法、 分析方法などすべてを明らかにしないと、データ比較の点でも水掛け論に終わってしまう。 一度騒ぎが起きると、当事者の弁明だけでは信用されない。国や県、研究所などしっかり とした第三者が公平に評価することで、この種の騒ぎはより早く収束し、市民の不信感も残らないと思う。

◆積極的に食べては── ダイオキシン問題に詳しい長山淳哉・九州大医療技術短大部衛生技術学科助教授(環境衛生学) の話

 厚生省の調査結果と比べて若干高い印象はあるが、ほとんど問題ないレベルだと思う。 テレビ朝日の数値はずっと高いが、精度の違いがあるので一概に比べられない。 一般に、魚介類に含まれるダイオキシンの方が、野菜よりもずっとダイオキシン濃度は高い。 また、ホウレンソウにたくさん含まれる葉緑素や食物繊維には、体内でダイオキシンを吸着し、 体外に排出させる効果があると考えられている。 これぐらいの濃度なら、むしろ積極的にホウレンソウを食べた方がいいのではないか。

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