「新たな脅威の環境ホルモン」
心配な精子数減少













 ホルモン作用を持つ身の回りの化学物質が、人類や野生生物の生存を脅かす新たな環境汚染として注目を浴びている。環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)と総称される化学物質のことだ。
 化学構造が生物ホルモンに似ていて、生体内に入り込むとホルモンのバランスを崩し、発育、生育、免疫機能の異常や、乳ガン、精巣ガンの誘発、製指数の減少を引き起こすとされている。

奪われし未来
この問題の火付け役となったのは、一昨年米国で出版された「奪われし未来」の著者である世界自然保護基金のシーア・コルポーン博士である。
 この本では、縮み上がったワニの性器、雌同士でつがいになるカモメ、短期間における男性の精子数の減少など、世界各地の衝撃的な異常現象を列挙している。
 流産や未熟児出産を防ぐとして、米国で妊婦に投与された人工合成ホルモン剤が、結果として多くの胎児に生殖器官異常をもたらした事件と結び付け、一見関連性のないこれらの現象が、実は環境ホルモンに起因し、人類の健康や生殖機能を脅かしていると訴える。
 米国はこの問題に官民一体で取り組み始めた。米国議会は、環境庁に2年以内に食物と飲料水中の環境ホルモンの有無をチェックする検査方法の確率を命じ、米国科学アカデミーなど著名なシンクタンクや医学研究所もその研究に力を注いでいる。
 注目すべきは、化学物質の既存の「安全性」に対する根本的な疑問だ。

極微量でも影響
 環境ホルモンであるPCB(ポリ塩化ビフェニール)やダイオキシンの危険性はもとより、プラスチックや樹脂の原材料、合成洗剤の界面活性剤、農薬など、極微量物質の危険性を、環境ホルモンというまったく別の視点から情報収集・研究する必要がある。
 極微量の環境ホルモンも、胎児や乳幼児期など重要な発育段階にはその個体、さらには次世代にまで決定的な影響を与えうる。自然界に散乱するPCBなどの環境ホルモンも、生物の体内に蓄積し、食物連鎖によって濃縮され、巡り巡って人体にも影響を及ぼす。
 例えば米国の5大湖いおいて、通常の水質検査では発見されないほど低い濃度の化学物質が食物連鎖で鳥に到達すると、2500万倍もの濃度になる。そこで捕れた魚を頻繁に食べた母親の脂肪から、通常以上の化学物質が検出されている。
 悪いことに、このような化学物質は母乳の脂肪分に最も蓄積し、このような母親の子供には、早産や神経障害による学習能力低下が通常異常発見されている。
 日本でも各省庁による本格的な情報収集・研究が始まっているが、最近、家庭用品から環境ホルモンが検出され、影響が懸念されている。
 「日本子孫基金がある大学に依頼した実験で、プラスチックの一種のポリカーボネート製の市販ほ乳器に熱湯を入れたところ、最大5.5ppbのビスフェノールAが検出された。ビスフェノールAは環境ホルモンの一種で、生物の体内に入るとと精子の運動能力の低下、乳ガン細胞の増殖などが報告されている。
 また市販のカップめん用のスチロール製容器から、やはり環境ホルモンと発がん性の疑いのあるスチレンを最高33ppb検出。子供用は固めやプラスッチック製おもちゃの一部に環境ホルモンの一種のプラスチック軟化剤フタル酸ジオクチルが含まれていることも判明した。

胎児や乳幼児
 環境ホルモンによる新たな地球環境汚染は、既存の化学物質の安全性・毒性評価を根底から覆す。まだどの物質がどれくらいの量で、どんな影響を持つのか詳しくは分かっていない。
 しかし、影響が証明されてからでは遅い。少なくとも、環境ホルモンの影響を被りやすい胎児や乳幼児が触れる製品は、環境ホルモン作用の恐れのないものだけに規制すべきだ。

見宮 美早(市民運動家)
〜沖縄タイムス1998/02/27夕刊〜

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