「不安消えぬダイオキシン」

「むしろ悪くなっている」新生児の発育にも影響



 「何も変わらない、というよりむしろ悪くなっている印象。煙は増え野焼きも続いています」
 有害化学物質の代名詞ともなったダイオキシン類の対策を目的に、大気汚染防止法や廃棄物処理法が改正されて3ヶ月。埼玉県所沢市の薬剤師山田久美子さんは訴える。
 産業廃棄物の焼却施設が集中するところ所沢市周辺は、住民の調査で土壌などのダイオキシン高濃度汚染が表面化。厚生省が死産や先天異常、所沢市が母乳、毛髪、血液の調査を進めている。「結果が気掛かりです」と山田さん。
 ダイオキシン被害では、ベトナム戦争で使われた枯葉剤の影響と見られる奇形の多発を思い浮かべる人は多い。日本では日本母性保護産婦人科医科会による1972年からの全国調査で、形態的な先天異常の発生率に変化はないという。
 形態異常ではないが、新生児や乳児の身体の発育が遅れ、知能にも影響を及ぼすクレチン病という疾患がある。ダイオキシン研究の一環として、昨年秋に患者発見率を分析した長山淳哉・九州大医療技術短大助教授(環境衛生学)はその結果にはっとした。
 1980年代半ばから発見率が上昇し、それまでは7000〜8000分娩に1例だったクレチン病発症率が1995年には3倍近くにまで達していた。
 クレチン病は、身体や脳細胞の成長に不可欠な甲状腺ホルモンの低下が主因。長山助教授はこれまで、母乳に着目した研究を進めた。母乳からのダイオキシン摂取量が多いほど乳児の甲状腺ホルモンの一種の濃度が低下する傾向にあった。
 しかし成果について海外の研究者らと討議を重ねるうち、母乳以上に母親の胎内で受ける影響が大きいのではないかと考えるようになった。「ホルモン異常などの機能的な奇形は、形態的な奇形に比べて低濃度でも起きる可能性がある。クレチン病とダイオキシンの関係はまだ不明だが、母胎汚染のない社会を本気で考える時にきている」
 「塩化ビニル類を代替え製品にすると、加工業者などの追加設備投資は2500億円」「塩素と同時に生産される水酸化ナトリウムが不足し、少なくとも1トン1万円価格が上がる」。業界団体による「塩化ビニル樹脂の社会的貢献度」と題した調査結果だ。  「排出だけの出口規制では原因物質の製造者の責任は問えない。これでは国民の不安にこたえられない」。グリーンピースジャパンの関根彩子さんはこう話している。

〜沖縄タイムス1998/04/23朝刊〜

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