「深刻化するダイオキシン汚染」

小型産廃施設に測定義務を

〜朝日新聞1998/05/19朝刊〜


国別に見た大気中のダイオキシン濃度
(1立方メートル当たり)
地 域測定年濃度
ピコグラムTEQ
日 本 工業地帯周辺
大都市
中小都市
1992
1992
1992
0.010〜2.0
0.000〜2.6
0.000〜1.9
米 国 都市
地方
1989
1989
0.077〜0.179
0.045
ドイツ 工業地帯周辺
都市
地方
1993
1994
1994
0.150
0.070〜0.35
0.025〜0.07
スウェーデン 都市
地方
1991
1991
0.024
0.013
英 国 都市
1993
0.040〜0.1
オランダ 焼却炉周辺
1991
0.010〜0.15

 土壌、大気から牛乳、母乳にいたるまで、国内の各地でダイオキシンによる高濃度汚染の実態が相次いで明るみに出されている。ダイオキシンはごく微量でも生体内のホルモン作用を狂わす恐れがあるだけに、欧米諸国と比べて排出量や汚染度がはるかに高い日本の現状はきわめて深刻だ。政府は昨年、ダイオキシンの最大の発生源とされるごみ焼却施設に対する緊急対策など汚染の解消の乗り出したが、実効は上がっているのだろうか。

 ごみ焼却施設から出るダイオキシンを削減するための指針を、厚生省が7年ぶりに改訂したのは昨年1月。焼却炉の種類や新設・既設ごとに排出基準値を定め、燃やす温度、排煙、焼却灰などの管理を具体的に示した。加えて、排煙1立方あたり80ng(ナノグラム=10億分の一グラム)を超えるダイオキシンが出ている焼却炉は早急に改善するよう指示した。
 この設置が徹底すれば、公共のごい焼却施設から出されるダイオキシンを1〜2年後に35%、10年後は98%減らせる、というのが厚生省の計算だった。

■疑わしい削減予測

 厚生省の推計では、国内の家庭や事務所から出るゴミを燃やす公共の施設から排出されるダイオキシンは、年間4300gにのぼる。一方、産業廃棄物の焼却施設からは540〜700g程度と見ている。
 したがって、公共の焼却炉の改善と適正管理が励行されればダイオキシンの8〜9割は減らせる、と厚生省は胸を張る。
 そう期待したいが、産業廃棄物についての厚生省の見積もりは少なすぎて、当てならない。

■絶えない不法投棄

 京都大の酒井伸一・助教授は廃棄物学会誌の論文で「産業廃棄物の処理から発生するダイオキシンがどのくらいあるのか、資料は皆無に近い」という。建材には防腐処理で有機塩素化合物が使われており、それが燃えるときにダイオキシンを発生するからだ。その建築廃材が、日本では産業廃棄物として大量に処理される。
 厚生省は廃棄物処理法を改正して、すべての公共の年1回以上のダイオキシン測定を義務つけた。この点は評価できるが、産業廃棄物は、対策を1時間あたり0.2トン以上の処理能力がある焼却炉に徹底したのは疑問だ。小規模な焼却炉の方が不完全燃焼などによってダイオキシンが発生しやすいことは、厚生省自らが指摘しているからだ。
 ダイオキシンの発生状況を正確に把握するためには、産業廃棄物についても規模の大小を問わず、すべての焼却炉に測定義務を負わせるべきだろう。

■監視は埋め立ても

 処理能力0.2トン以上に限っても、測定の対象になる産業廃棄物の焼却炉は約1万基。公共のごみ焼却炉数の5倍にもなる。鉄鋼用電気炉、汚泥や木くず焼却用のボイラーなどまで含めると、測定が必要な施設は全国で2万基を超えると推定されている。
 大阪・能勢町にある焼却センターで明らかになったように、焼却灰による周辺土壌や水の汚染までを考えたら、焼却炉だけでなく埋め立て処分場も監視を怠るわけにはいかない。廃棄物処理法が改正されるまでは無許可で設置できたミニ処分場まで入れると、どのくらいになるのか、厚生省もつかみきれない。
 ダイオキシンが社会問題化して、化学物質の微量測定を請け負う約40社はこのところ、休日返上で徹夜の作業が続いている。
 その1社、東和化学(本社・広島市)はピークだった昨年12月から今年3月までに200件を測定した。「1件の測定に2〜3週間。測定装置を1台〜3台に増やして年間800件の測定が可能な態勢にする」と、同社の広津隆義東京支店長代理はいう。
 ダイオキシンは、1兆分の1グラム(0.000000000001g)という兆微量を正確に測定しなければならない。不純物が混じらぬように、専用の測定量が必要だ。測定結果はもちろん、信頼で出来るものでなければならない。ダイオキシン汚染の実態をありのまま国民に伝えるためにも、測定体制の整備と信頼性は欠かせない。

Back